鑑識担当として取り扱った事件 パート2
鑑識担当として取り扱った事件 パート2
民間被害者対策チーム「アルゴスユニット」のヤマモトです。
今日は、ある所属時代に取り扱った、悲しい殺人事件について、お話します。
それは、当直明けの朝でした、執務室で徹夜で仕上げた取り扱い事件の事務処理をしていたところ、
「男の人が、2階建てアパートの外階段から転落、病院に運ばれた」
との指令が入りました。
男性は、命に別状はないとのことであったので、とりあえずアパートの現場確認からしようということになり、現場直行しました。
現場は、どこにでもある普通のアパート、1階4室、外階段を上ると2階にも4室があるものでした。
現場は、たいして血痕も発見されずに、整然とした状況、今までの経験から
「こりゃ、酔っ払いが落ちたな、たいした怪我もしとらんだろう・・」
落ちた人の身元がわからないとのことで、とりあえず、2階を1室ずつノックしてみました。まだ、朝早い時間、みんな寝てる時間です。応対してくれたのは、1軒だけ
「何かが階段を落ちる音がして、救急車が来てました。階段の上で、争う音とかは聞こえませんでしたよ。」
とのこと。一番奥の部屋をノックしてみたところ、返事がない。聞こえてくるのは、室内にいる犬の鳴き声だけ、「おはようございます」と声をかけながら、ドアノブを回してみると、開いている・・「ここの住人だな」確信を得た私たちは、そのことを本署に報告して病院へ行ってみた。
救急外来のベッドに横たわる初老の男性、思ったとおり、たいした怪我はしていない、近づいてみると、強い酒臭・・・やっぱりね・・・
「何で落ちたの?何で飲んでから外に出たの?あなた、アパートの一番奥の部屋の〇〇さんでしょ?」
男、顔を手で覆うようにして無言「・・・」、そのとき本署から携帯に電話が来て、捜査係長から「その男性は、奥さんと二人暮らしのはず、自宅内を別動隊に確認させるから、目を離さないように」との指示。
それからも、その男に幾度も話しかけるが、無言のまま・・そのとき、携帯電話がなり、出てみると、アパート確認をした部長刑事から、
「女性が、部屋のベッドの中で首を絞められて殺されているのを発見した。本件は、殺人事件である。」
との、静かな声。
男に対し、一緒に病院に行った敏腕デカが、静かに、しかし嘘は言わせないという毅然とした言葉で「奥さんは、どうした?何があった?」と質問したところ、男は、手で顔を覆い隠しながら、
「すみません、二人で自殺することを話し合って、私が殺しました・・自分も死ぬつもりだったけど、死にきれなくて・・すみません・・」
男は、その場で逮捕、子供のいない二人は、将来のことを悲観して死を選び、今回の事件に至ったそうです。
現場アパートに入ってみると、二人が子供代わりにと飼っていた犬が寂しそうに鳴いており、犬が見上げるベッドには奥さんの亡骸が見えました。
奥さんの亡骸の横には、寄り添うように
二人が子供代わりにと可愛がっていた女の子の人形
が寝せてありました・・・
二人が飼っていた犬は、保健所に引き取られましたが、数日後ひっそりと息を引き取ったそうです。現場検証等のために何度も現場を訪れましたが、二人の可愛がっていた女の子の人形については、日がたつにつれて、寂しそうな顔になっていくような感じがしてなりませんでした・・・
悲しい悲しい事件でした。
命の約束、生きる約束、みんなにしてもらいたい、本当に強く感じた事件でした。
If you fight, We become your sword and shield.~あなたが戦うのなら我々はあなたの剣と盾になりましょう~
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